白木のカウンターの向こうは別世界が広がる。
整然と並べられた道具たちが、自分たちの出番をじっと待っている。
井上ゆり氏は目的の作品を作るために、迷うことなくそれらの道具たちを
静かに手に取る。
お客の口元や、飲み物の進み具合をカウンター越しに計りながら井上ゆり氏は手をひろげる。
傍にはシャリが用意されているが、井上ゆり氏と穏やかにしゃべる我々には、一体いつ片手がシャリを握るのか正直よくわからない。
手元を見ているためには、井上ゆり氏との会話を中断しなければいけないからだ。
井上ゆり氏の話は末広がりだ。
ひとつのネタのことを聞けば、そこからツリー状に話は膨らんでいく。
包丁、日本酒、手に取る魚。
押し付けがましくないほどに、豊富な知識が語られる。
生きた情報が目の前に置かれる作品と共に空間を彷徨い、
その情景が浮かび、我々は自身の過去の記憶を辿るため、シネマティックな瞬間が交差する。
注文する日本酒の舌触りと目の前に置かれた一貫との相性。
「人それぞれ味覚は異なるので、一般的にはー」
と、断りを入れてから話は進む。
お任せのメニューなので、次になにが来るのかは玉手箱状態である。
季節の魚が作品となって出てくるだろうと想像はしているものの、その姿形は、井上ゆり氏独自のデザインと感性によるためいい、意味で期待を裏切られる。
カウンター越しにでもわかる魚の色とツヤ。
皮を剥ぐ音に耳をすませる。
包丁とまな板だけに集中できるパフォーマンスだ。
カウンターの上には小ぶりの七輪が置かれ、小さな焼き物が準備されている。
耳をすませば、ぱちっぱちっと油が弾ける音が聞こえる。
わずかに油が焼かれる香りも漂い、五感を余すところなく刺激される。
音と香りと、視覚では捉えられない究極の贅沢がここにある。
井上ゆり氏の手から、次なる作品が生まれる。
ところどころ光り輝く背。
肌色とは言い難い、うっすらとしたピンク。
そこに緑のジュエリーが飾られる。
衣を剥がれたことで、生まれたままの姿が差し出される。
細かい切れ目を入れるので、わずかに切れ目が広がり、カウンター越しに思わず中を覗きたくなる。
何が隠れているのか。

うっすらとしたピンクの肌に飾られた緑のジュエリー。視覚では捉えられない究極の贅沢がここにある。
「浅葱と生姜を載せてあります」
次回は井上ゆり氏を支える相棒の話。




