「いいね、もう少し上手くやれそう」
この日のために夫はわざわざまな板を用意してくれた。しかも檜の一枚もので、木目が殊更に美しい。より一層力も入るというものだ。
「削ぎ切りなんてやってみちゃう?」
見様見真似で削ぎ切りを始めたものの、正面に立つ夫の恐ろしいほどの真剣な眼差しに圧倒されて何が何だかわからなくなってしまった。
「ねえ、そんなに見つめないでよ」
「いや、これから巻いて食べるんだな〜って思ってさ」
意味不明の返答。
初めての刺身包丁だが、切る対象物によって、触感が変わることは体験できた。切れない三徳包丁では押しつぶすことで誤魔化していたので、切れ味などというものに意識が向かなかった。
今回使用した柵は、マグロ、サーモン、こち。こちは今がちょうど美味しい時期で旬の魚だ。
「はい、どうぞ〜。やってみて」
やってみたくってたまらない風の夫にようやく包丁を渡した。
「やばいな、これ、本当にやばいかも」
何やら謎めいた単語だけを並べ、夫は食材と向き合っていた。こんなに喜んでくれるなら、食事もうんと楽しくなる。
「用意できた!」
食卓に並んだ手巻き寿司の材料は本当にキラキラと輝いて見えた。特に初めて刺身包丁で切った柵は、崩れていないことだけで感動ものだ。
「この2cmは避けてくださいね」
一応前振り。まずはお刺身の一切れだけを口にする。ああ、嘘ではなかった。ざらざら感がない。崩れていない分、口に入れても丁寧に噛み締められる。
断面も違う。比較にならない。切れなさすぎる三徳包丁で挑戦し続けた日々が遠ざかる。
「これ、どうやって片付けるの?」
夫は包丁の保管方法を心配している。
それはもちろん大切だけど、今はこの素敵なパーティーを思う存分楽しまない?

食卓に並んだ材料は、本当にキラキラと輝いて見えた。





